宇宙の果てはこうなっている

第Z章 そうだったのか宇宙

       
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【 第Z章 −6】 エピローグ 

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 さあ、いかがだったでしょうか、読者の皆さん。宇宙の果てを目指して続けてきた私達の旅も、ここでどうやら終着点に辿り着いたようです。
 本当にアインシュタインさんにはいろんなことを教わりました。有り難うございました。

 あなたはこうやって、生涯を宇宙の構造と生い立ちの解明に捧げられたんですね。さぞかし充実した素晴らしい人生だったことでしょう。

 「いやいや、それを言わんといてや。わての人生なんて最悪なもんやったんさかい。」
 え、最悪って、何か心残りなことでもあったんですか。

 「心残りも何も。お恥ずかしいと言うしかない。ああ、今思い出しても顔中冷や汗が吹き出ますわ。」
 あらら、ほんとうに額のあたりから汗が浮き出ていますが、そんなにお暑いんですか。

 「なんの。このお団子が蒸かしたてやからでっしゃろ。わてなんぞな、おそらく世界中で一番情けない男やった思いますわ。」

 何があったのかは知りませんが、時間が空間と一緒に伸び縮みするなんていう驚異的な発想を理論化された成果は、全人類の世界観や宇宙観の進展に画期的な貢献をされたと思いますよ。
 「そらあ物理学の分野では多少なりとも注目されたけどな。けどそれも自分がやりたいことにただ現を抜かしていただけのことや。頑固に我が儘に。」

 

 「しかし家庭人としてはわては最低の人間や。特にミレーバとエルザには大変むごいことをしてしもうた。」

 えーと奥さんのことですか。あなたは一度離婚をされていますよね。最初の奥さんが ミレーバ・マリッチ Mileva Maric さん。
 「そや。チューリッヒ工科大学の同級生や。」
 わあ、学生結婚だったんですか。

 「彼女は二人の息子を育てるのに必死やった。それなのにわては自分のエゴために家族の全てを犠牲にした。わての頭の中には自分の研究のことだけしかなかったんや。」
 そうでしたか。
 「わては、人付き合いが心底苦手なんや。家庭を大切にする人間でもないし。ミレーバにはほとんど関心を向けず、家に帰っても一切助けなかった。」

 奥さんも若い頃は女性科学者を目指していらしたんでしょう。孤立無援で家事に追われる生活はさぞかし苦しかったのでしょうね。

 「本人に聞いてミレーバ。」
 こんな話の最中にもそんな軽口が言えるんですか。

 「アインシュタインと言えば何故か知らんが、庶民的な風貌と気の利いたジョークとが売り物になってしもうとる。つい習性でな。」

 演技をしてマスコミにサービスされていたのですね。もうそんな仮面は脱ぎ捨てておしまいなさいよ。

妻ミレーバと二人の息子

 「思考の邪魔をされたくなかったなどと言い訳をしていたけどな。本来は癇癪持ちで暴力的な人間なんや。歳の頃から家庭教師に椅子を投げ付けたりしていたらしいから。」

 いわゆる今で言うドメスティック・バイオレンスですね。
 「ノーベル賞の賞金を慰謝料代わりにして
1919 年に調停離婚した。息子達は二人とも、身勝手なわてを憎んでいたさかい母親と一緒にチューリッヒへ戻った。以来ほとんど会うてはいない。夫としても失格やし、父親としても失格でんなあ。はは。」

 長男のハンス・アルバート Hans Albert さんはその後カリフォルニア大学バークレー校で流体力学の教授をされましたが、次男エドワード Eduard さんは統合失調症を発症し生涯回復せず、スイスの精神病院で亡くなっていますね。
 「わての暴力も原因のひとつやったかもしれん。あの子が入院してからも一切を妻に任せて、優しい言葉のひとつもかけてやらんかった。今になって謝っても済むことやない。」

 

 二番目の奥さんは エルザ・レーベンタール Elsa Lowsenthal さん。

 「この人はまたいとこに当たる。わてが大病をしたときにも懸命に看病をしてくれたんや。物静かで、暖ったかい女性やった。」

 とても世話好きで、料理が好きな方だったとも聞きましたよ。

 「でもわての長年の癇癪と暴力のせいやろうなあ。最後はおどおどとした暗い表情ばっかりしか記憶にないんや。」

 ナチス突撃隊の迫害を逃れてあなた方がアメリカへ移住した直後に、エルザさんは病気で亡くなられたんですよね。

エルザとアインシュタイン。日本へ向かう船上で。

 「プリンストン・マーサー通りの小さな家で彼女の死に顔を見た瞬間に、わては全てを後悔した。この人をほんまに不幸な女性にしてしもうたと。でも今さら言うても追い付かんわなあ。」

 1936 年ですから、エルザさんはまだ 59 歳だったんですよね。
 「それからあとの
19 年間は寂しさと悔悟の日々やった。ますますわては人を遠ざけてひとりの世界に籠もって行った。」

 

 色んなことがあったんですね。あなたにもご家族にも。

 「わては予測不能の人間関係いうもんが嫌いやねん。どこにおっても孤立を守ろうとしてたような気がする。エルザは逆に、天真爛漫にわてとの人間的交流を求めるタイプの性格やった。」
 それには応えられなかったんですね。

 「その罪滅ぼしにな、霊界に来てからはいつも一緒におることにしてるんや。」
 あらあ、そうですか。それはまた良い話じゃないですか。でも今日はお一人ですよね。
 「いんや。来ておる。」
 え、どこにですか。

 「あそこや。」
 あそこって、あそこはキャンプ管理棟の方角ですよ。それにしてもあの榛の木、あんなところにあれだけ背の高い木があったかなあ。

 あらら、これって私の目の錯覚ですか。何んだかあの榛の木がこっちに近寄って来てる気がするんですけど。うわ、それにあの木、だんだん人の形になっていません?

 こ、こ、これってどういうことですか。榛の木が女性の姿になってこちらへ歩いてくるじゃありませんか。
 「やあエルザ、こちらはこの森のボランティアさん。わての研究についてもごっつ詳しく調べてあるで。」

 よ、よろしくどうも。ようこそ県民の森天文台へ。
 そうかあ、『榛の木』 は英語では 『エルナス
Alnus』 ですが、なるほどドイツ語読みでは 『エルザ Erle』 ですもんね。全く気が付きませんでした。

 「今じゃいっときも彼女のそばを離れんようにしておる。何処に行くのにも一緒や。」
 そうですか。さっきからあそこに立って、ずっとこちらを見ておられたんですか。
 「この草団子いうデザート、結構旨いで。エルザも食べてみい。」

 済みません。男のがさつな料理ですけど。え、ドイツでもアメリカでも見たことないお菓子なのに、何だか懐かしい味がする。そうでしょう、エルザさんにまでそう言って頂けるなんてありがたい限りです。

 「なあ、これいくつかもろうて帰ってもよろしいか。」
 ええ、どうぞどうぞ。残り全部持って行って下さいよ。
 「エルザがな、子供達の分も欲しい言うてまんねん。つい最近な、息子達もわてと一緒に暮らしてくれるようになったんや。」

 

 何だかこっちまで少しほっとさせられます。最後に心暖まるお話まで頂いて有り難うございました。いよいよこれでお別れですね。

 「そうそう、あの天文台の中に大きな液晶モニターがあったやろ。」
 はい、曇った日などはあれにビデオを映し出して、こども達に宇宙の話を聞かせたりしているんですよ。みんな目を輝かせて聞いてくれますよ。

 「あのモニターにな、ちょいと仕掛けをして、霊界につながるような設定をしておいたさかい、もし会いたくなったら右下のボタンを押して欲しいねん。呼ばれたらいつでもわて、ここへ現れて来ますよってに。」

 わあ嬉しい。でもいつの間にそんな作業をされていたんですか。
 「ほら、エラトステネスの話のあとやったかいな、わてがちょっとここを離れた時間があったでっしゃろ。」

 ああ、たしか背後霊ごっこの時でしたかね。
 「あん時な、ちょっと天文台に戻っとったんねん。」
 そうでしたか。いや有り難うございます。これでこの天文台に来られたお客さんにも、あなたに会ってもらえる事になりますね。楽しみだなあ。

 「それじゃ、たくさんご馳走になったなあ。久し振りに楽しい時間を過ごさせてもろうた。あんさんも奥さんを大切にしなはれや。」

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