宇宙の果てはこうなっている

第V章 そこが宇宙の果てではない

       
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【 第V章 −3】 遠くの銀河は後退していた

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 それにしてもハッブルさん。わずか年後なんですよね。
 あなたがアンドロメダの距離を測定して
Popular Astronomy 誌に 「渦状星雲の中のセファイド」 を発表されたのが 1925 年の月。

 その年後の 1929 年には、もう例の 「銀河系外星雲の距離と視線速度の関係」 アメリカ科学アカデミー紀要 に書いておられる。これはやっぱりすごいことです。

 「さよう。あの後すぐに、J.C.ダンカン君、サンデージ君、R.B.タリー君、J.R.フィッシャー君 などの活躍によって、もっと遠くの銀河の距離が次々に測定されていった。」

 「それでも1929 年の時点で距離が知れていた銀河はわずか 18 個、視線速度を測定されていた銀河は 46 個に過ぎなかったし、それらのデータ数値もまだ不確実なものだったかも知れん。」

 その時点でもう 星雲の視線速度υ[km/秒] と、距離[Mpc] とが比例する ことに気付かれた。つまり、遠くの銀河ほど大きい速度で遠ざかっているのだと。

 「そうじゃ。しっかしなぁ、スペクトルの赤方偏移が 500 Km/秒とか 1000 Km/秒だもんなあ。本当にそんなどえらい速度で遠ざかっているのか、わしももうひとつ自信が持てなくて 『見かけの後退速度』 と書いておいたのだがね。」

 でもあなたが書いた  υH0    という式の H0 [km/秒・Mpc] は、今では ハッブルの定数 と呼ばれているんですよ。

 「それはわしが生きている頃からじゃ。」
 あ、そうでしたか。それはどうも、恐れ炒り豆。

 えっと話を逸らすために、距離の単位についてちょっと説明しておきますよ。「パーセク(1pc)」というのは、天文単位 (太陽と地球の平均距離 = 1.496×1011 m) を見込む角度がちょうど秒角になるような距離のことです。上のハッブルさんの公式に出てきたMpc(メガパーセク) は、3.26×106 光年に当たります。

 

 要するに H0というのは、距離と後退速度との比例定数ですよね。ハッブルさんの最初の報告でこの定数を見積もると 530 くらいになるんですが、その後バーデさんの研究などで星雲の距離が一気に改訂されたのですね。

 「系外星雲の距離の測り方はセファイド法だけでなく、その後、最輝星法、タリーフィッシャー法、超新星法などが開発された。それでも各観測グループごとにばらつきがあって、現在でも H0の確定値は出ていない はずじゃ。」

 はい。このハッブルの定数 H0 は、現在では宇宙の始まりと終わりを左右する重大な数値であると言われているんですが、2004 年の時点でも、まだ 50100 [km/秒・Mpc] の間であろうという程度で、全く決着が付いていなかったんですよ。

 どうも近頃の書物によっては
   
H0100 3.24×10-18 [秒-1]
 の
をハッブルパラメータと呼んでいるものもあるが、それで言うと、 0.51.0 というわけじゃな。ふっ、ふっ、ふ。愚かなことよな。

 

 えっ、愚かなことよ。ハッブルさん。それじゃあひょっとして、あなたはもう 正確なハッブル定数をご存じ なのですか。
 「あたぼうでござる。」

 それってどこの方言ですか。2006月には NASAが、宇宙望遠鏡による年間の観測から H0 72 と発表した んですが、あ、言っちゃおうかなぁ。ちなみにこの宇宙望遠鏡の名前がですね、ハッブル望遠鏡って言うんですよ。うふふ。これは知らなかったでしょう。

 「それはそれは。身に余る光栄でござるな。」
 それでもまだ
H064 とか H0 120 などを主張する科学者もいて、論争に収まりが付かないんです。ぜひ教えてくださいよ。

 

 「えっへへ、どぉしようっかなぁ。まあ、あとでな。そのうち教えて進ぜよう。」

 どっどーん。ハッブルさん、あなた結構お腹とお尻の調子が悪いでしょう。つまり胃痔悪ですね。
 まあいいや。ところでこの 「銀河系外星雲の距離と視線速度の関係」 を発表する時には、もう膨張宇宙のイメージはあったのですか。

 「もちろん。すでに 1922 年にはロシアの数学者 アレクサンドル・フリードマン 殿がアインシュタインの重力場方程式を解いて膨張宇宙モデルを提唱されておったからな。それがいよいよ観測で実証された のだから大騒ぎになった。」

 そうするとこの 1920 年代というのは、わずか数年のうちに宇宙の構造に対する認識が飛躍的に塗り替えられていった激動の時期だったんですね。

 「そうじゃったのう。いよいよ宇宙の本当の姿が見え始めたと、みんな必死じゃったなぁ。ほら、ほら、この遠くを見る目つき、この横顔。これをちょっとデジカメで撮ってくれんか。そして第章第節のわしの写真と入れ替えてくれんじゃろかのう。」

 さ、ここでみなさん。今さら大丈夫だとは思いますが、この 膨張宇宙のイメージ について確認をしておきますよ。
 「おい、また無視かよ。」

 

 遠い銀河ほど速い速度で後退していると聞いて、それじゃぁまるで我々が棲むこの銀河系が、宇宙の中心にあるんじゃないかと考えた人はありませんか。しかし、宇宙に特別な場所はなく、どこに行っても一様かつ等方で、条件が同じ であることについては疑いようがありません。

 これを宇宙の 「等方性原理」 と言います。イギリスの ミルン (1896-1950) Edward Arthur Milne という人が最初に提唱しました。私達の銀河系も多くの銀河の中の平凡なひとつでしかなく、宇宙にはどこにも、中心も端っこもありません。

 ほら、ここでこのHPのテーマでもある 「宇宙の果て」 について、最初のヒントが出ましたよ。宇宙には中心がない以上、端っこもないんですね。

 

 宇宙膨張のイメージについて、よく使われる説明が、風船を膨らませる右の図ですよね。

 まず風船の表面に小さな点をたくさん書きます。この点が銀河です。

 風船の表面は次元の面ですが、これを次元の宇宙空間だと見なします。
 風船を膨らませると宇宙全体が膨張し、各点間の距離はどこでも増加しますね。

 しかも遠い銀河ほど大きく距離が遠ざかります。
 それはどの点を中心にして見ても同じ事です。つまりどの点も中心とは言えないということになります。

 

 宇宙はこのように、どこを中心というわけでもなく、全体が膨張しているのです。
 「銀河が遠ざかると言うより、
空間全体が拡がっている と考えて欲しい。それと、もうひとつ言っておかなければならんことがある。」

 「現在では右図のように、銀河ひとつのスケールではなく、『銀河団』 としてその距離と後退速度の比例関係が既に測定されておる。」

 「そりゃあアンドロメダや M33 などというのは互いの重力で多少は近付いたりもしておるかも知れんが、このグラフではそれらの星雲は、ほんの原点近くにしかならない。なんせ横軸の単位は億光年だからな。」

 つまり私達のほんの近辺の銀河とは桁違いの、もっと大きなスケールで巨視的に見る ということですね。

 「ましてや我々の銀河系内の星々なんてのは、銀河渦の回転力学によって運動している。そうした星と星との距離が増えておるというのではない。」

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