宇宙の果てはこうなっている

第Y章 宇宙の歴史と地平線の関係

       
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【 第Y章 −6】 エラトステネスの偉業 

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 「それは水平線じゃ。」
 水平線ですか。

 「遠くの沖から港に帰る船を見ていると、最初に水平線の彼方にマストの先だけが見える じゃろう。近付くにつれてマストの根元が見え、最後にやっと船体全体が見えてくる。」

 はいはい、なーるほど。それが、海面が曲がっている証拠なんですね。
 「そうや。もしも海面が何処までもまっ平らなら、遠くの船は大きさこそ小さいが、最初っから船体の全部の部分が見えるはずじゃ。」
 ああ、そうか。この現象は太古の人たちも目にしていた筈ですよね。

 「まだあるで。北極星の高度が場所(緯度)によって違う。
 あ、北極星が日周運動をしないということは既に気付いていたでしょうしね。で、違う場所に行ってそいつを眺めると、高さが違って見える。そうか、地面が平らなら、何処で見ても高さは変わらない筈だ。

 

 「日の出や日の入りの時刻も、場所によって変わる わな。」
 はいはい。地球が丸いからこそ、日の出の時間はずれて見えるんですよね。現在ではだから、場所によってそれぞれの標準時計が設定されています。日本では明石標準時というふうにね。
 「アメリカ合衆国なんぞでは経度に応じて
つの標準時を使用しておる。」

 ただ大昔の人が、場所を移動しながら統一した基準で時間のずれを測定するなんていうのは、かなり難しかったでしょうね。
 「現代でも同じやないかい。動いている物体の中での時計を比較するのは、それがわずかな差だっただけに、なかなか気が付かんかった。」

 ああそうです。観察力の鋭い人だけが相対性原理に思い至った、とこう言いたいわけですね。どうだい、時計も望遠鏡もなかった時代に地球が丸いことを発見したのと同じくらい凄いことやろうと。

 「何をおっしゃるウサギさん。わてはそこまで自己顕示欲丸出し人間やおまへんて。昔から洞察力のある科学者はたくさんいたやろうと言いたいんや。」
 そうか。このインドの宇宙観を提唱した人も、これはもう立派な科学者だと言っても良いわけですね。

 

 「ところで入れ歯の爺さんがトロッコの中で逆立ちをしてるんやが。」
 はいはい、話がコロッと変わるんですね。
 「あんさん、
エラトステネス Eratosthenes BC273頃〜BC192 いう人知ってまへんか。」

 エラトステネス、知ってますよ。アレクサンドリアの学術研究所(ムセイオン)で図書館長をやった人でしょう。
 「そう、紀元前
273 年の生まれやから、ローマではカルタゴの戦いの真っ最中、日本で言えば縄文時代が終わりようやく青銅器が朝鮮半島から伝播した頃の人や。」

 ずいぶん古い時代の人ですよね。確か子午線の長さを初めて測った人でしょう。
 「そや。当時プトレマイオス朝の支配権は、カイロの南方、今ではアスワンと呼ばれているシエネの街にまで及んでおった。」
 超巨大国家事業アスワンダム・アスワンハイダムで有名な街ですね。

 

 「そのシエネの街にな、神が宿る井戸 があるという古い言い伝えがあったんやて。興味を持ったエラトステネスはさっそく訪ねてみた。」
 アレクサンドリアからはちょうど真南の方向ですが、ナイル川のかなり上流だから、荷物を積んだラクダを何頭か連ねて、何日もかかって移動したんでしょうね。

 「すると、毎年21 日つまり夏至の日の正午に、太陽が井戸の底深く射し込み、水面を照らすのだと分かった。」
 ははん、すなわち年に一度だけ、ちょうど
夏至の日に太陽がきっちり頭の真上に来る ってわけですね。

 「そこでエラトステネスは次の年の夏至の日の正午に、アレクサンドリアの街で太陽の高度を測ってみた。すると真上ではなく、天頂からの角度は 7.2であった。」
 当然ですね。これまたこの世界の地面が平面ではない証拠じゃないですか。

 「この事からエラトステネスは、地球が球形であると見積もれば、この角度は 360 50 分のに相当する。逆に言えば、シエネとアレクサンドリアの間の距離が分かれば、地球の周囲の長さはその 50 倍だということに気付いた。」

 今で考えればなるほどという感じですが、なんせキリストが生まれるより前の頃ですからね。この世界が球体かどうかということですら、雲を掴むような話だった でしょうしね。
 「アレクサンドリアまで戻った時のラクダの速さと日数から、両都市の間の距離を
5000 スタディオンと見積もった。」

 スタディオンって何です。

 「当時古代ギリシャのオリュンピア競技祭で行われていた、徒競走の標準的な距離じゃ。現代の単位に直すと 185 mに相当する。」

 するとその 5000 倍の 50 倍ですか。地球一周の長さは。
 「
46250 キロメートルとなる。最新の天文年鑑に記されている子午線全周の長さは 40007.880 kmであるから、何と 誤差はわずかに 15 パーセント ということになる。」

 すごいですよね。ギリシャ時代に地球が丸いと確信して、しかもその大きさまで 15 パーセントの誤差で出しちゃうなんて。何だか怖いくらいに感動しますよ。

 「もっと怖い話があるで。当時確かに競技会はギリシャのアテナイで開催されるオリュンピアがメジャーではあったが、実はエジプトで行われる競技会では、スタディオンは 157 mだったんや。」

 はあ、ギリシャとエジプトでは基準が違っていたんですか。157 メートルですね。えーとこれを使って計算すると、ほう、地球全周は 39250 kmとなりますよ。
 「そうや、誤差はたったの
1.9 パーセントとなる。」
 げえっ、
1.9 パーセント。しかもエラトステネスはエジプトの人ですよね。こっちを使った可能性が強いじゃないですか。

 

 「まあ今になってみれば、どっちのスタディオンを使ったのかはもうどうでもええけどな。問題は ひとりの人間が、地球は平面なんかではないちゅう強い信念を持ち、科学的洞察力を駆使すれば、ここまで真実に迫れた というこっちゃ。」
 人類の英知ってどこまで素晴らしいんですか。偉い!トステネス。

 「やっぱしな。いつか言うやろうとは思うとったがな。」
 あいたぁ、読まれてましたか、やっぱり。それはそれは私としたことが亀が負けました。
 「え、何やねん、亀が負けたって。」
 だから、亀が負けて兎が勝ったんだから、ウカツでしたって。


 「確かに我々人類は銀河系にとどまっている限り、地平線の向こうを見るなんてことは永久にできんじゃろう。しかし方法を見つけ出しさえすれば、この宇宙の大きさを測ることだって可能 なはずじゃ。」

 宇宙の大きさですか、あの我々からは見えないけどアンドロメダからは見える宇宙なんかも含めて、宇宙ぜーんたいの大きさですよね。

 「そう、137 億光年先の宇宙の地平線は確かに観測限界なんでっしゃろな。しかもそれにしたって全体宇宙のほんの一部分しか見ていない。そやけど問題は、宇宙はあきらかに有限であって、その何倍であるのかは実はつきとめられ得るんじゃよ。」

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